純損失の繰戻還付の記載例と注意点を徹底解説

純損失の繰戻還付の記載例を知りたい個人事業主・青色申告者向けに、還付請求書の書き方から繰越控除との比較まで具体的に解説。あなたは正しい選択ができていますか?

純損失の繰戻還付の記載例と申請で絶対に押さえるべきポイント

繰戻還付を申請すると、住民税国民健康保険料は1円も還付されず、所得税だけが戻ってきます。


この記事でわかること
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還付請求書の記載例

確定申告書のどの欄を・どこに転記するか、番号付きで具体的に解説します。

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見落としやすい注意点

期限切れ・同時提出忘れで還付がゼロになるリスクと、税務調査の可能性を説明します。

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繰越控除との比較

翌年の状況によってどちらが得かが変わります。判断基準をシミュレーションで解説します。


純損失の繰戻還付とは何か|制度の基本と対象者

純損失の繰戻還付(くりもどしかんぷ)とは、青色申告をしている個人事業主が赤字の年に前年分の所得税の還付を受けられる制度です。仕組みをひとことで言えば、「今年の赤字を去年の黒字と相殺して、払いすぎた税金を取り戻す」というものです。


たとえば、前年(令和5年分)に課税所得が400万円あり、所得税を37万2,500円(復興特別所得税を除く)納税していたとします。翌年(令和6年分)に事業の損失が300万円だった場合、前年の課税所得400万円と今年の損失300万円を相殺すると、課税所得は100万円に縮まります。課税所得100万円の所得税は約5万円ですから、前年に支払った37万2,500円との差額である約32万円が還付される計算です。これが繰戻還付の仕組みです。


この制度を利用できるのは青色申告者だけです。白色申告者は対象外です。


適用要件は、以下の5点です。


  • ① 前年(還付を受けたい年)も青色申告書を提出していること
  • ② 当年(赤字が出た年)も青色申告であること
  • ③ その年に純損失(赤字)が生じ、前年分と相殺すると税額の差が発生すること
  • ④ 確定申告期限(原則3月15日)までに確定申告書を提出すること
  • ⑤ 確定申告書と「同時に」還付請求書を提出すること


⑤の「同時に」という点は非常に重要です。後から単独で提出しても、原則として認められません。


参考:国税庁が定める還付請求手続きの概要と様式はこちらで確認できます。


国税庁|A1-4 純損失の金額の繰戻しによる所得税の還付請求手続


純損失の繰戻還付の記載例|還付請求書の書き方と転記手順

ここからが本題です。実際の記載例を見ていきましょう。


還付請求書に記載する金額は、前年と当年の確定申告書から転記します。転記を間違えると計算がずれるため、どこから何を持ってくるかを正しく把握することが重要です。


以下は、令和5年分に課税所得100万円・所得税5万円を納税し、令和6年分に▲100万円(純損失100万円)が生じた場合のシンプルな記載例です。


還付請求書の欄 転記元(確定申告書) 記載する金額(例)
②前年分の課税所得金額 前年(令和5年分)確定申告書 第一表「㉖課税所得金額」 1,000,000円
⑦前年分の所得税額 前年(令和5年分)確定申告書 第一表「㊵所得税額」(注:㊷の復興特別所得税を含む税額ではない) 50,000円
⑩前年分の源泉徴収税額 前年(令和5年分)確定申告書 第二表 0円(事業所得のみの場合)
⑤繰り戻す純損失の金額 当年(令和6年分)確定申告書 第四表「純損失の金額」 ▲1,000,000円
⑭相殺後の課税所得 ②−⑤で計算(1,000,000−1,000,000) 0円
⑱相殺後の所得税額 ⑭を元に税率表で再計算 0円
㉒還付請求金額 ⑦−⑱(ただし源泉徴収税額控除前の所得税額が限度) 50,000円


注意点が1つあります。転記する所得税額は「㊷」ではなく「㊵」です。㊷には復興特別所得税が加算されていますが、復興特別所得税は繰戻還付の対象外です。ここを間違えると還付額が過大になり、後から修正を求められる可能性があります。㊵だけを使うのが原則です。


また、すべての純損失を繰戻還付に充てる必要はありません。一部だけを繰戻しに使い、残りは翌年以降3年間の繰越控除(申告書の第四表B)として処理することも可能です。余った損失は損失申告書(第四表)に記入して翌年に繰り越します。


参考:還付請求書の記載方法と具体的な転記手順はこちらも参照できます。


税理士ブログ|純損失の繰戻還付請求書の記載方法と繰越控除との比較検討(龍チャン税理士事務所)


繰戻還付の申請で失敗しやすい注意点|期限・調査・地方税の落とし穴

記載例を正しく押さえても、手続きの落とし穴を知らないと損する場面があります。


まず最大の注意点は「期限内の同時提出」です。繰戻還付請求書は、当年の確定申告書と同時に、3月15日の申告期限までに提出しなければなりません。「後から送れば大丈夫だろう」と思って期限後に単独で提出しても、原則として還付は認められません。国税不服審判所の公表事例にも、「やむを得ない事情があったとは認められない」として還付が却下されたケースが記録されています。期限には期限があります。


2つ目の注意点は、税務調査の可能性です。所得税法上、繰戻還付は「調査に基づいて還付する」とされています。つまり、申請すると税務署が内容を審査し、場合によっては照会や実地調査が入ることがあります。通常の個人事業主に税務調査が入る確率は0.5〜1%程度とされていますが、繰戻還付の申請はそのトリガーになりやすいと言われています。厳しいところですね。


3つ目が「地方税には一切適用されない」という点です。繰戻還付は国税(所得税)だけの制度です。住民税・事業税・国民健康保険料については、還付は一切されません。この事実を知らずに「税金が全部戻る」と期待してしまうと、後から落胆することになります。


住民税については、繰戻還付を適用した場合でも「翌年以降の繰越控除」として別途処理され、所得税とは繰り越す損失の金額が異なるケースも生じます。


参考:復興特別所得税が還付されない点や地方税の扱いについては下記も参照してください。


弥生会計|納めた税金が戻ってくる繰戻し還付とは?仕組みや条件を税理士が解説


繰戻還付 vs 繰越控除|どちらが得か判断する具体的な基準

繰戻還付と繰越控除は、どちらが正解かは「翌年の見込み収入」によって変わります。結論は「翌年黒字が見込めるなら繰越控除、とにかく今お金が必要なら繰戻還付」です。


シンプルな比較で見てみましょう。


項目 繰戻還付 繰越控除
お金が戻るタイミング 今すぐ(申告後数週間〜2ヶ月程度) 翌年以降に節税効果として反映
住民税・国保への影響 なし(所得税のみ) あり(所得金額が下がり連動して減少)
税務調査リスク やや高め(法令上調査が前提) 通常の申告と同様
向いているケース 赤字で資金不足が深刻・翌年も赤字が続く可能性 翌年以降に黒字が見込める・国保を抑えたい


たとえば、前年に所得税を5万円納めており、翌年に黒字100万円が見込まれる場合を考えます。繰戻還付を選ぶと今期5万円が戻りますが、翌年には100万円の課税所得に対して所得税・住民税・国保がそのまま発生します。一方、繰越控除を選ぶと今期の5万円は戻りませんが、翌年の課税所得が0円になることで所得税・住民税・国保がすべて大幅に圧縮されます。これは使えそうです。


繰戻還付と繰越控除は、どちらか一方だけしか選べないわけではありません。損失の一部を繰戻しに充て、残りを繰越控除に使うという「部分活用」も認められています。翌年の収入が不透明な場合は、このような使い方も検討に値します。


独自視点:繰戻還付を選んだことで翌年の国保が上がるリスク

多くの解説記事では「繰戻還付で所得税が戻る」というメリットが強調されます。ただし、あまり語られない論点があります。それは「繰戻還付を選ぶと翌年の国民健康保険料が高くなるリスクがある」という点です。


国民健康保険料は「所得金額」を基礎として計算されます。繰越控除を使えば、翌年の所得金額そのものが圧縮されるため、国保料も連動して下がります。ところが繰戻還付を選んだ場合、繰戻しは所得税にのみ作用し、翌年の所得金額には影響を与えません。その結果、翌年に黒字が出れば、国保料がまるまる発生してしまいます。


たとえば翌年の課税所得が100万円になるケースでは、繰越控除なら課税所得が0円になり、国保の所得割もゼロになります。繰戻還付を選んだ場合は国保の所得割が発生し、自治体によっては年間数万円〜十数万円の差が生じることもあります。


「所得税5万円の還付を受けたが、翌年の国保が8万円増えた」という状況は、数字を見れば取り返しのつかないマイナスです。痛いですね。


この落とし穴を回避するためには、翌年の収入見込みを立てた上で、繰越控除の効果も含めてトータルの手取り額を試算することが欠かせません。確定申告ソフト(弥生の青色申告オンラインなど)にはシミュレーション機能があるものもあるため、申告前に数字を確認しておくと安心です。


参考:繰戻還付と繰越控除の選択で国保や住民税への影響がどう変わるかは、下記の税理士解説も参考になります。


freenance|前年に支払った所得税が還ってくる!青色申告ならできる繰戻し還付を税理士が解説