不当労働行為の申立て管轄と救済手続きの正しい知識

不当労働行為の申立て管轄と救済手続き

申立て先は「本社のある都道府県」だけだと思っていると、大事な権利を逃します。


📋 この記事の3ポイント要約
🏛️
管轄は「4つの選択肢」から選べる

申立て先は本社所在地だけでなく、行為地・自分の住所地・組合の事務所所在地など複数の都道府県労働委員会に申立てが可能。

申立ては「行為から1年以内」が絶対条件

1年を1日でも過ぎると却下。「継続する行為」の場合は最後の行為日が基準となる重要例外がある。

⚖️
救済命令に違反した使用者には最大100万円の罰金

確定した救済命令を無視すると、裁判所の判決を経た場合は1年以下の禁錮または100万円以下の罰金が科される。


不当労働行為の申立てができる「管轄」の4つの選択肢

不当労働行為の救済申立てを考えるとき、「申立て先はどこの労働委員会なのか」という管轄の問題は、思いのほか複雑です。多くの人が「会社の本社がある都道府県の労働委員会にしか申立てできない」と思い込んでいますが、実際にはそうではありません。


労組施令(労働組合法施行令)第27条第1項の定めにより、次の4つのいずれかを管轄する都道府県労働委員会に申し立てることができます。



  • ① 申立人(労働者または労働組合)の住所・主たる事務所の所在地

  • ② 被申立人(使用者)の住所・主たる事務所の所在地

  • ③ 不当労働行為が行われた地(行為地)

  • ④ 報復的不利益取扱いの場合は、その原因となった不当労働行為事件・調整事件が係属する(または係属した)労働委員会


①の「申立人の住所・主たる事務所の所在地」が選択肢に入っている点は特に重要です。これは使いやすいです。自分が住んでいる都道府県、または組合の本部がある都道府県の労働委員会に申し立てることができるため、遠方の本社に合わせて移動コストをかける必要がなくなります。


また③の「行為地」とは、たとえば東京本社から神奈川の支社で起きた不当労働行為であれば、神奈川県労働委員会も選択肢に入るということです。申立人にとって地理的・心理的に便利な委員会を選べるよう、複数の選択肢が用意されています。


なお、万一管轄違いの委員会に申し立ててしまった場合でも、申立書は管轄する労働委員会へ自動的に移送され、当事者に通知されます。管轄違いを理由に申立てが無効になるわけではないため、この点は安心です。


参考リンク(管轄の仕組みをわかりやすく整理した公式ページ)。
山梨県労働委員会「救済の申立について」


不当労働行為の申立て期限「1年以内」の落とし穴

救済申立ての管轄と並んで、絶対に見落としてはならないのが申立ての期限です。これが原則です。


労働組合法第27条第2項は、「不当労働行為があった日から1年以内」に申立てをしなければならないと定めています。この1年という期限を1日でも過ぎてしまうと、申立ては即座に「却下」となります。証拠が完璧に揃っていても、正当な主張があっても、期限切れは覆せません。痛いですね。


ただし、重要な例外があります。「継続する行為」については、その行為が終了した日が起算点になります。


例えば、組合員であることを理由に毎月の賃金を低く査定し続けている場合、「昇給査定を行った日」から1年ではなく、「その査定に基づいた賃金が最後に支払われた日」から1年が申立て期限になります。これは最高裁判所の判例(紅屋商事事件・平成3年6月4日)によって確立されたルールです。


同様の低査定が繰り返されている場合は、次の査定が実施された時点で前の査定とは別個の行為として扱われます。つまり「査定→次の査定→次の査定」と続く場合、直近の査定から1年以内に申し立てれば、その査定に基づく差別的取扱いの是正を求めることができます。


地方公営企業等の労働関係に関する法律に基づく解雇の場合は、さらに短く「2カ月以内」という期限が設けられています。これだけは例外です。


いずれにせよ、不当労働行為と疑われる事情が生じた場合は、できるだけ早く専門家または労働委員会の窓口に相談することが、時効切れリスクを回避する最善策です。


参考リンク(申立て期限と継続行為に関する詳細な解説)。
弁護士法人・都市綜合法律事務所「ユニオンから労働委員会への救済申立てに期限はありますか?」


不当労働行為の申立て手続きの流れ:審査から命令まで

申立てが受理されると、審査手続きは「調査→審問→合議→命令」という4つのステップで進行します。


まず「調査」の段階では、申立書の写しが被申立人(使用者)に送付されます。使用者は送付を受けた日から原則10日以内に答弁書を提出しなければなりません。10日はかなりタイトです。この答弁書の期限の短さは一般的な民事訴訟と比べても厳しく、使用者側は申立書を受け取ったらすぐに内容を精査する必要があります。


調査では双方の主張・証拠の整理が行われ、その後「審査計画」が策定されます。審査計画には①整理された争点・証拠、②審問の期間・回数・証人の数、③命令書の交付予定時期の3点が盛り込まれます。


続く「審問」は公開で行われ、証人尋問や当事者への直接尋問が実施されます。合議では、事実認定と労働組合法第7条への当てはめが非公開で行われます。この事実認定には裁判所の判決と同水準の「証明」が必要とされており、単なる「疎明(一応確からしい程度)」では足りません。


「命令」では、申立てに理由があると判断された場合は救済命令が、理由がないと判断された場合は棄却命令が出されます。救済命令の内容としては、たとえば解雇に対しては「原職復帰と賃金差額(バック・ペイ)の支払い」が命じられ、団体交渉拒否には「誠実な団体交渉の実施」が命じられます。また、支配介入行為の禁止や、謝罪文の事業場内掲示(ポスト・ノーティス)が命じられることもあります。


命令が確定するまでの期間は、大阪府労働委員会の統計(令和7年)では全終結事件の平均処理日数が450日(約1年3カ月)となっています。


参考リンク(中央労働委員会によるパンフレット・全体手続き図)。
厚生労働省「不当労働行為の救済制度」(PDF)


不当労働行為の申立てができる「当事者」と使用者が負う不服申立てのリスク

救済申立てができるのは、労働組合または個々の労働組合員(組合員個人)です。労働組合が組織されていない非組合員の個人は申立人にはなれません。ただし、個人が地域の合同労組(いわゆるユニオン)に加入した上で申立てを行うことは可能です。つまり組合加入が条件です。


使用者側は救済申立てができません。これは不当労働行為が「使用者による行為」のみを規制しているためです。


救済命令等に不服のある当事者は、次の手続きを踏むことができます。



  • 📌 都道府県労働委員会の命令に不服 → 命令書交付の日から15日以内に中央労働委員会へ再審査申立て

  • 📌 中央労働委員会の命令に不服 → 命令書交付の日から
     使用者側:30日以内に東京地方裁判所へ取消訴訟提起
     労働者側:6カ月以内に東京地方裁判所へ取消訴訟提起


ここで金融に携わる企業の担当者として特に注目してほしいのが、救済命令を無視した場合のペナルティです。


確定した救済命令を履行しない場合、使用者には「50万円以下の過料」が科されます(労組法第32条)。さらに、取消訴訟を経て裁判所の確定判決で救済命令が支持されたにもかかわらず違反し続けた場合は、「1年以下の禁錮または100万円以下の罰金」が科されます(刑事罰)。救済命令は無視できません。


なお、「緊急命令」という制度もあります。使用者が取消訴訟を提起した場合でも、裁判所は労働委員会の申立てに基づき、判決が確定するまでの間、使用者に救済命令の全部または一部に従うよう命じることができます。つまり、訴訟を起こしている最中であっても、命令の効力を止めることは簡単ではありません。


参考リンク(救済命令違反の罰則の詳細)。
弁護士法人・都市綜合法律事務所「労働委員会からの救済命令に反した時、罰則はありますか?」


金融業界の担当者が知っておくべき不当労働行為の独自視点:「再審査」と「初審コスト」の関係

金融機関や上場企業の人事・法務担当者にとって、不当労働行為の救済申立てが持つリスクは単なる「命令の内容」だけではありません。審理にかかる期間コストと、社内リソースの消耗という見えにくいコストが存在します。これは意外ですね。


救済申立てから命令が出るまでの目標期間は、中央労働委員会が「1年3カ月以内」と設定しています。しかし大阪府のケースでは実際の平均処理日数は450日(命令事件は501日)であり、目標を超えることも少なくありません。再審査(中央労働委員会での二審)にまでなると、トータルで2〜3年かかることもあります。


この期間、使用者側は「申立書受領から10日以内の答弁書提出」「複数回の調査期日への出席」「審問での証人対応」「弁護士費用」などを継続的に負担します。法的コストは勝訴しても回収できません。


また、不当労働行為事件は原則として審問が公開で行われます。金融機関の場合、企業イメージへの影響がレピュテーションリスクになりえます。審理の内容が報道される可能性や、命令書が公開される場合を想定した対応も視野に入れておく必要があります。


こうした長期化リスクを踏まえると、使用者側としては申立てを受けた後に和解を検討することが費用対効果の面で有利になる局面があります。労働委員会は審査途中のいつでも和解を勧奨することができます。和解が成立すれば手続きは終結し、命令書の交付も不要になります。


一方、労働者・組合側の立場からすると、正式命令を得ることで「将来に向けた行為禁止」「ポスト・ノーティス(掲示命令)」といった宣言的効果を得られます。単純な金銭補償だけでは得られない効果です。和解か命令かの選択は、双方の戦略的判断によって変わってくるわけです。


審査の進行中、組合または労働者は命令書が交付されるまでいつでも申立ての全部または一部を取り下げることができ、取り下げた部分は「最初から係属しなかったもの」とみなされます。この柔軟性が、労使双方に和解のインセンティブを与えています。


参考リンク(審査期間の目標と達成状況)。
中央労働委員会「審査の期間の目標(令和5年〜7年)」