形がいびつな土地を相続すると、むしろ相続税が安くなる可能性があります。
「不整形地」という言葉を聞いて、よほど奇妙な形の土地をイメージする方が多いかもしれません。しかし国税庁の財産評価基本通達では「不整形地」の定義が厳密に規定されているわけではなく、正方形・長方形でない土地を広く対象としています。台形や平行四辺形の土地でも、相続税の計算上は不整形地として扱われるのです。
具体的には以下のような土地が不整形地に分類されます。
- 三角地:三角形の形をした土地で、建物の配置に制約が生じやすい
- 旗竿地(L字型の土地):細長い通路の先に広い敷地がある、旗と旗竿のような形
- 台形・平行四辺形:一見きれいに見えても四角形でないため不整形地扱い
- 境界線がギザギザの土地:のこぎり刃状の境界を持つ土地
- 隅切り地(角地):交差点で角が削られた土地
昔から受け継がれてきた土地は不整形な形であることが珍しくありません。比較的新しい住宅区画では整然と区画整理された土地が多いのですが、旧来の土地は地形や道路の形状に合わせた不整形な区画が随所に見られます。こうした土地では有効利用できない部分が生じるため、評価額を下げる「補正」が認められているのです。
不整形地は整形地と同じ面積・同じ立地でも、使い勝手が劣ります。建物を建てるにしても駐車場にするにしても、形に合わせた設計が必要で無駄な空間が生まれやすい。これが評価額を下げる根拠です。
なお、国税庁の財産評価基本通達の第20条に不整形地の評価規定が定められており、三角地も含まれると明記されています。
参考:国税庁 財産評価基本通達 第20条(不整形地の評価)
https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/sisan/hyoka_new/02/03.htm
不整形地の相続税評価額を計算するには、国税庁が公表している「不整形地補正率表」を使います。これが正しく使えるかどうかで、相続税の金額が大きく変わります。補正率の確認は3つのステップで進めます。
ステップ1:地積区分表でA〜Cを判定する
まず「地積区分表」で、土地の地区区分と面積から地積区分がA・B・Cのどれかを確認します。たとえば普通住宅地区にある300㎡の土地なら「A」と判定されます。地積区分は土地の面積が大きくなるほどB・Cへと移行し、同じかげ地割合でも補正率に差が出てきます。
ステップ2:かげ地割合を計算する
次に「かげ地割合」を求めます。かげ地割合とは、不整形地を完全に囲む長方形・正方形(想定整形地)の面積に対して、不整形地と重ならない部分(かげ地)の面積が占める割合のことです。計算式は次のとおりです。
$$\text{かげ地割合} = \frac{\text{想定整形地の地積} - \text{不整形地の地積}}{\text{想定整形地の地積}}$$
たとえば想定整形地が400㎡、不整形地が300㎡であれば、かげ地割合は25%になります。土地の形が複雑でかげ地が多いほど、この割合が高くなり、より大きな減額が期待できます。
ステップ3:補正率表に当てはめる
地積区分とかげ地割合が確定したら、不整形地補正率表に当てはめて補正率を読み取ります。たとえば普通住宅地区・地積区分A・かげ地割合25%であれば、補正率は0.92です。最大でかげ地割合が65%以上・地積区分Aの普通住宅地区なら補正率は0.60となり、評価額は4割も圧縮されます。
つまり、かげ地割合が増えるほど有利です。補正率の下限は0.60が原則です。
参考:国税庁 路線価図・評価倍率表(地区区分の確認に使用)
https://www.rosenka.nta.go.jp/
参考:税理士法人チェスター 不整形地補正率の計算方法と注意点(実務的な補足解説として参考になります)
https://chester-tax.com/academy/blog/hyouka/unfairness-land-1293
国税庁は不整形地の評価について4種類の計算方法を認めています。これはあまり知られていない重要なポイントです。複数の方法が使える場合、納税者は最も評価額が低くなる方法を選択できます。
方法①:区分した整形地を基として評価する方法
不整形地を複数の長方形・正方形に分割して、それぞれの評価額の合計に不整形地補正率をかける方法です。境界の形状によってL字型やコの字型の土地で使いやすいアプローチです。
方法②:計算上の奥行距離を使う方法
「不整形地の面積 ÷ 間口距離」で計算上の奥行距離を求め、それを使って整形地として評価した後に補正率をかけます。どのような形の不整形地にも対応できる汎用性の高い方法で、実務でも頻繁に活用されています。
$$\text{計算上の奥行距離} = \frac{\text{不整形地の面積(㎡)}}{\text{間口距離(m)}}$$
ただし、この奥行距離は想定整形地の奥行距離を超えることができない点に注意が必要です。
方法③:近似整形地を使う方法
不整形地に近似する長方形・正方形を求め(近似整形地)、その評価額に補正率をかけます。「想定整形地」とは異なり、近似整形地は不整形地を完全に包含しません。はみ出し部分と引っ込み部分の面積がほぼ等しくなるよう設定します。角が90度であれば必ずしも長方形でなくてもよいため、意外と適用範囲が広い方法です。
方法④:差引き計算をする方法
近似整形地に隣接する整形地を一体として計算してから、その隣接部分の価額を差し引く方法です。4つの中では最も計算難度が高く、専門家の腕の見せどころとも言える手法です。
4つの方法を具体的な数字で比較すると、同じ土地でも評価額に数百万円の差が生じることがあります。最も評価額が低くなる方法を正確に選ぶためには、すべての方法を試算してみることが理想です。これが節税の核心部分です。
参考:富士総合会計事務所 不整形地の相続税評価(4つの方法を図解で詳しく解説)
https://fuji-sogo.com/sozoku_knowledge/category_inheritance_tax_valuation_of_land/undefined_land/
不整形地だからといって、必ずしも補正率が適用されるわけではありません。意外と見落とされやすいのが「適用除外」のケースです。ここを誤ると、逆に過少申告や不合理な評価になってしまいます。
ビル街地区・大工場地区には補正が適用されない
2007年(平成19年)1月1日以降、ビル街地区にある土地については不整形地補正率を適用できません。また大工場地区にある不整形地も原則として補正率が適用されないとされています。ただし、大工場地区でも地積がおおむね9,000㎡以下のものは、例外的に中小工場地区の区分を準用して補正できる場合があります。
地区区分は路線価図で必ず確認する必要があります。路線価図上のアルファベット記号が地区区分を示しており、何も囲まれていない状態は「普通住宅地区」です。
帯状の部分がある土地は補正対象外
旗竿地などで帯状(細長い通路部分)を持つ土地の場合、形状によっては不整形地補正率が適用されないことがあります。帯状部分の存在でかげ地割合が過大になり、不整形地補正を適用すると不合理な低評価になってしまうためです。国税庁の質疑応答事例(第17号・第18号)でも明確に「帯状部分がある場合は帯状部分とその他部分に分けて評価し、不整形地としての評価を行わない」とされています。
具体的には、帯状部分(例:旗竿地の竿部分)とその他部分を分けて別々に評価し、その合計を評価額とします。
倍率方式では補正率を使わない
市街地以外の土地で適用される「倍率方式」では、土地の形状による補正は固定資産税評価額に既に織り込まれているという考え方から、不整形地補正率を別途かけることはしません。倍率方式か路線価方式かを先に確認することが前提です。
これらのルールを知らずに補正率を適用してしまうと、税務署から指摘を受けるリスクがあります。補正率の誤適用は相続税申告のよくあるミスの一つです。
参考:国税庁 不整形地としての評価を行わない場合(帯状部分の取り扱い)
https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/hyoka/03/17.htm
不整形地の評価では、不整形地補正率だけでなく、他の補正率との「組み合わせ方」が大きなポイントです。ここを理解しているかどうかで、同じ土地でも相続税に大きな差が生じます。
間口狭小補正率との併用は可能(ただし下限は0.60)
間口(道路に面する部分の長さ)が狭い土地については、間口狭小補正率を不整形地補正率に掛け合わせることができます。たとえば普通住宅地区で間口が4m未満の土地は間口狭小補正率が0.90になります。不整形地補正率が0.88であれば、0.88 × 0.90 = 0.792となり、さらに評価額が下がります。この組み合わせ補正率の下限は0.60と定められています。
$$\text{適用補正率} = \text{不整形地補正率} \times \text{間口狭小補正率(下限0.60)}$$
奥行長大補正率との併用はできない
一方、間口に対して奥行距離が極端に長い土地(たとえば奥行距離が間口の8倍以上)には奥行長大補正率が適用されますが、不整形地補正率と奥行長大補正率は同時に使えません。どちらを選ぶかは計算して有利な方を選択します。
比較のポイントはこうなります。
| 選択肢 | 使用する補正率の組み合わせ |
|---|---|
| パターンA | 不整形地補正率 × 間口狭小補正率 |
| パターンB | 間口狭小補正率 × 奥行長大補正率 |
パターンAとパターンBを両方計算し、数値が低い(=評価額が低い)ほうを選びます。これが節税の基本原則です。
旗竿地のような「間口が狭く奥行きも長い」土地の場合は、この選択が特に重要になります。専門家でなくても、まずどの補正が使えるかを把握しておくだけで、後の税理士との相談が格段にスムーズになります。
このような複数補正の組み合わせ計算は複雑なため、国税庁の「路線価図・評価倍率表」ページのツールや、相続税専門の税理士に依頼する方法が現実的です。
金融や資産管理に関心の高い方にとって、ここは特に重要なポイントです。不整形地の評価を正しく行わないまま申告して相続税を払いすぎてしまった場合、後から取り戻せる可能性があります。
「更正の請求」で5年以内なら還付される
相続税の申告期限(相続発生から10ヶ月後)からさらに5年以内であれば、「更正の請求」という手続きによって過払いの相続税を還付してもらえます。つまり相続発生から最長5年10ヶ月以内であれば、土地評価を見直してやり直せるのです。
実際に相続税の申告で土地評価が正しく行われていなかったケースは少なくありません。特に次のようなミスが多く見られます。
- 不整形地補正率が適用できるのに使っていない(適用漏れ)
- 間口狭小補正率との併用ができることを知らずに単独で計算していた
- 帯状部分がある土地で誤って補正を適用してしまっていた
- 想定整形地の取り方が誤っていた(かげ地割合が過少になっていた)
たとえば路線価1㎡あたり20万円の土地200㎡(評価額4,000万円)で補正率が0.60になるケースでは、補正後評価額は2,400万円になります。補正を適用しなかった場合と比較すると1,600万円もの差が生じ、相続税率によっては数百万円単位の追加還付が生じることもあります。
更正の請求は申告書類と計算根拠の再整理が必要
更正の請求を行うには、正しい計算根拠(路線価図、地積測量図、かげ地割合の計算書など)を添付して税務署に提出する必要があります。手続き自体は相続税専門の税理士に依頼するのが現実的です。
過去の申告の見直しは自分ではなかなか気づきにくい部分ですが、「申告した税理士が相続税専門ではなかった」「相続が多く時間に追われて申告した」というケースでは、見直しで還付が生じる可能性が特に高くなります。心当たりがある場合は、申告期限から5年という期限を念頭に置いて早めに確認することをおすすめします。
参考:国税庁 相続税の更正の請求に関する情報
https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/shinkoku/annai/23.htm